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こんにちは、絵と漫画と
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・「自転車日和」(辰巳出版)いしいしんじさんコラム
「自転車A面B面」挿絵
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「かいじゅうたちがやってきた」挿絵
・終了!WEB まんが連載「あまからハイツのまほうのちゃぶだい」
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バタ田ドラ子の話


バタ田ドラ子は身寄りのない女で、ミミズ牧師の教会に住み込みで働かせてもらっている。年の頃は30、31くらい。3年前、金持ちのドラ息子が「もう飽きたから」と汚い子供用ドラムセットを教会のバザーに寄付してくれたが売れ残り、そのドラムをドラ子はふとしたきっかけで夜中に礼拝堂で叩き始めた。

ドラムのルールは全くわからなかったが、でたらめにちからまかせで太鼓を叩くのは楽しい。しかしすぐに飽きてしまった。ある日「今日から君も叩ける〜ドラムテクニック・基礎の基礎〜」というビデオをリサイクルショップで発見したので、すこし勉強することにした。ドラ子はもう何年も無趣味で暇だった。

ドラ子は毎晩礼拝堂にドラムをひっぱりだしては、ひとりでたのしくドラムを叩いた。誰にもみられてないのを良いことに、ノリノリで叩いた。繰り返されるリズムに心が空っぽになった。スポーツはやったことがなかったが、こんな風なものなのだろうか。
いくつかのリズムパターンをマスターしたドラ子は、ミミズの牧師が持っている日本のポップミュージックのシングル盤をレコードプレーヤーでかけながら、それに合わせてドラムを叩き、おまけに歌った。

「カーテンを開いて 静かなほほえみの 
やさしさに つつまれたなら きっと
目に映る すべてのことが メッセージ」
この曲を、きっとたくさんの人が好きだと思うだろう、わたしも好きだ、とドラ子は思った。
礼拝堂のカーテンはしっかり閉じているが、この曲は静かなほほえみのよう、いうなれば、やさしさ、のようだ。

「あなたに女の子の一番 たいせつな ものをあげるわ
小さな胸の奥にしまった たいせつな ものをあげるわ」
大切な物ってなんだろう?うさぎにとっての耳とかカメにとっての甲羅やツキノワグマにとっての月みたいなものだろうか。

他には甲斐バンドやオフコース、泉谷しげるなんかがミミズ牧師のお気に入りらしくたくさんのレコードがしまってあった。
それを片っ端からかけながら、一晩中ドラ子は汗をかいてドラムを叩いた。

ある日ドラ子はミミズの牧師に呼び出された。
「ドラ子さん、あの前から常々言おうと思ってたんですけどね、
あの夜中のドラム、あれそろそろやめてみませんか。
言っちゃなんですけど、あなたのドラムは下手で、うるさくて、迷惑なんです」

紳士で人格者で、そして雇い主である恩人のミミズ牧師に苦言を呈されることは今まで一度もなかったので、ドラ子は困惑した。ドラ子にとって今や夜中のドラムはなくてはならないものだった。実はそのおかげで昼間のドラ子の仕事はたいへんおろそかになっていた。

ミミズの牧師は言った。
「でもあなたにとって、実はいつのまにかドラムが大事になっていた、ということもわかっています。
ドラ子さん、ベストキッドっていう映画知ってますか」

ドラ子は知らなかった。良い映画なのだろうか。

「その映画で、主人公の少年はカラテを学びたいのだが、洗車をしたり壁を塗ったりさせられる。しかしいつのまにかカラテがうまくなっているのです。ドラ子さん、あなたもドラムのことを一度すっかり忘れて、別のことに精進しなさい。それがドラムをよりよく叩けるようになる一番の近道なのです」

ミミズ牧師は続ける。
「あなたのドラムを夜な夜な聞いていますがね、あなたのドラムは、なんというか、わがままでこらえがない」
夜な夜な聞かれてたのかとおもうとドラ子は本当に恥ずかしくなった。

「だからあなたに教会の壁紙のパターンつくりを命じます。そして夜はよく眠ること」
えーそんな、とドラ子は思うが、ドラ子が住む場所は他にはない。
絵筆と絵の具を持たされて、ドラ子の壁紙パターン作りは始まった。

そして3年の月日がたち、ドラ子はふたたびドラムを叩くことを許された。
せきを切ったように叩き溢れるドラム。もともとうまい訳ではないドラ子のドラムなのだからテクニックはさておき、
ドラムを叩けば叩くほど、なにか熱いものが体の中から沸き上がってくる。それは音にも現れる。
高く体が浮かび上がる。心の中で「虎の目」が開くのを感じる。
目に映るすべてのものがメッセージのように感じる。ドラムは地平線まで繋がってるように感じる。頭のてっぺんが宇宙と繋がってるように感じる。なんだか体がぐるぐる回る。これが「今日から君も叩ける〜ドラムテクニック・基礎の基礎〜」のビデオでハードロックバンドの先生が言ってたグルーヴでしょうか。

こうやってドラ子は溶けてバターになった。
そして3年後、ホットケーキ作りをしているレモンとライムとはちみつに出会い、ホットケーキレストランを開業するのです。
(写真/鈴木未央)
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